誰かの上に立って指揮を振るうような立場にはないけれど、ひとりぼっちで仕事を遂行しているわけではないし、上下関係の有無に関わらずせっかく一緒に働くなら楽しく働きたい、というスタンスで読みました。
また、本文でも言及されているけど、誰かを思うままにコントロールして何かをさせる人心操作ではなく、こちらの頼み事を相手がやりたくなるようにもっていく、のが目標です。
なにはともあれ、個人的には心理学系の本を読むのは初めてに等しいです。
ヒトをヤル気にさせる要因
本書によると、人に何かをしてもらおうとする場合に裏で作用する「科学」を理解し、その知識を対象の人や状況に即して応用し、相手のヤル気を引き出すことができれば、頼み方の当て推量をする必要がなくなるということ。
その「科学」を理解する上で必要な、人のヤル気を引き出す7種類の要因を、それらと関連する研究成果と併せて解説し、後半では様々な状況下における具体的な応用法をケーススタディとして紹介しています。
7種類の要因
ひとつひとつの詳細な説明や応用法についてはぜひとも本書を読んでいただくとして、ここではそれらの大まかな概要とほんの一部のストラテジーを書いておきます。備忘録的な意味合いも込めて。
帰属意識
社会的な生き物である人間には「自分はある集団の一員だ」という帰属意識がある。これを巧みに利用する方法。
他者との絆を相手に感じさせることや、既にそのことをやっている人がいること知らせるといった方法、話す際に身振り手振りを模倣したり、相手から指導者(リーダー)であると見なされることなど。
習慣
人間が普段、特に意識することなく行っている行動、つまり習慣的な行動として他者に何かをさせる方法。
新しい習慣をつけさせるために「きっかけ」と「強化刺激」を与えること、そしてそのための目標を小さな段階に分けたり、過程をできるだけ簡易化する。また、習慣化には現状に関するフィードバックが必要となる。
物語の力
自分が考える自分自身の外的な顔、ペルソナとストーリー(物語)に見合った行動をすることを望む性質を利用した方法。
相手のストーリーやペルソナを変えさせることで言動を変えることができる。ペルソナを変えるための第一歩は現在のそれと一致しない小さな行動を取らせること。公的な要素が強い形での関与だとより有効的。
アメとムチ
報酬(強化刺激)を与え、他者に何かをさせる方法。特に、その報酬の適切な活用法。
強化刺激はただ与えるだけでなく、定着させるためには連続的に与える。定着後も続けさせたい場合は変動比率スケジュールを用い、頻繁でなく安定的・定期的にやってもらいたい場合は変動間隔スケジュールを用いる。
対象者が心から欲する強化刺激を選ぶ必要があり、それは行動の後に与えることが最適。また、対象者がそれを避けようとする「負の強化刺激」も検討する。
本能
生存欲や食欲、性欲といった人間の本能に訴えかける方法。特に、人間は予期せぬ出来事や恐怖のもとになる出来事に弱い。
人目を引くには危機的な状況を伝える言葉や写真、動画を見せる。「獲得の可能性」よりも「喪失の可能性」のほうがより強力な動因となり得るため、恐怖や死に関わるメッセージが有効。
新しいものを試してほしい時は、相手が安心している時を選び、馴染みのものを使い続けてほしい時はそれを避ける。人間は自律性を重んじるため、選択肢を与えることは有効だが、三つか四つにとどめる。
熟達願望
外から与えられる報酬(強化刺激)と反対の、人間に生来備わっている内発的動機付けを利用した方法。
「この仕事は精鋭にしかできない」といった意識を持たせると熟達願望が高まる。ただし、難しすぎるとヤル気が失せてしまう。また、失敗から学ぶ機会を与えることも重要であるが、そのためのフィードバックで作業を中段させるべきでない。
いつもより長時間、熱心に作業を続けさせたい時は「フロー状態」に入らせ、持続させる。
心の錯覚
実際に目にしたものと脳が認識したものが異なる「目の錯覚」のように、判断や思考が先入観に左右される「認知的錯覚」を利用した方法。
即断してほしい時は判断しやすい状況、熟考してほしい時は判断しづらい状況をお膳立てする。個人主義的な行動を求める時は「お金」のことを持ち出し、協調性や支援を求める場合は持ち出さない。
権威への服従や、当人が属する集団の社会規範に従うことを求める時、地元の人々への寄付を積極的にしてもらいたい時は「死」を想起させるものを用い、地域外の人々に対して共感や積極的な寄付をしてもらいたい時はそれを避ける。
確証バイアスを打破しようとする場合、認知的不協和を利用して相手にひとまず不快感を与え、後にそれを和らげる答えや解決策を提示する。
13パターンのケーススタディ
第9章では、7種類の要因をどのような場面でどのように用いるのかといった例として13パターンのケーススタディが掲載されています。
「自主的に判断して仕事をしてほしい」や「子供たちに家で楽器の練習をしてほしい」、「市民にリサイクルを実践してほしい」など、仕事から家庭、地域といった様々な場面が登場します。
場面や対象者によって、用いるべき要因は異なるため、その状況で特に有効な要因(動因)を見極め、それを利用するためのストラテジーを決めることが重要になります。もちろん、複数の動因を組み合わせることも効果的です。
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本書には7種類の要因に則した140ものストラテジーが紹介されていて、上述した内容はほんの一部に過ぎません。 特に「心の錯覚」に関連するストラテジーが膨大なので、ぜひ一読していただきたい一冊。