偏に「UX(User eXperience)」と言っても、そこには様々な概念が存在していて、昨今注目されているUXデザインの手法をプロジェクトに正しく適用するにはその概要や知識を正しく理解する必要がある。
...のではないかと思っている時、偶然にも「UXデザインの教科書」というそれらが体系的にまとめられていそうな書籍が発売されました。著者は千葉工業大学の安藤昌也さん。
第2章まで読みました
教科書というだけあって、内容は非常に濃くて(素人がこんな偉そうに言うのもあれだけど)、それだけに理解しながら読むのは時間がかかります。
大きく4章に分かれいて、UXデザインに関する内容が「概要」、「基礎知識」、「プロセス」、「手法」といった章立てで体系的にまとめられています。
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UXデザインの基礎・基本
第1章の概要と、第2章の基礎知識の部分には、UXデザインに関する概要(すなわち求められる背景や歴史など)、そして、関連する要素や用語等々に関する解説が載っています。
本屋で見かけるUIやUXをタイトルに冠した書籍は多くあるけど、HTMLやCSSに関する技術よりのものだったり、とにかく理想的な開発の進め方を物語ったものだったりする印象が強い中、この本の第1章・第2章は上記の解説に終始しています。
無論、その用語を説明する上でのケーススタディ的な例なども出てくるのだけど、「必ずしもすべてのプロジェクトにあてはまるものではない」といった但し書きのような感じはあるので納得できます。
著者による簡易まとめスライド
まとめと言っても内容が書かれているわけではなく、「こんな目次で書いています」といった具合なので、やっぱり実際には書籍を読んでみるに尽きます。
スライドの中に出てくる複雑そうな図は、書籍中にも出てくるのだけど、これが最初はワケがワカラナイのです。テキストと図を行ったり来たりして、なんとなくの理解で読み進めて、第2章を終えるかどうか、といったあたりでようやく、「ああ、なるほど」と僕はなりました。(たぶん理解力が弱いから)
第1章 『概要』
見出し通り、UXデザインに関する概要の章です。
- UXが求められる背景
- ユーザを重視したデザインの歴史
- UXデザインが目指すもの
以下、僕自身の現時点での理解に留まる事柄なので、本書にこういった内容でまとめられている、とかではないです。
UXって何ですか
これまで「なんとなくそうでしょ。」って感じで、「UX大切大切!」って叫んでいたけど、「で、何がUXなの?」「なんで大切なの?」ってなったら説明できない。でも、この章を読んで、以前よりは理解が深まったと言えそうです。
自分なりの理解としては、『何かしらの機能やシステムそのものをユーザに提供したいのではなく、それによって得られる体験こそ、本当に提供したいもの、すなわち、User eXperienceである。』と、こんな感じ。
人間中心設計(HCD)
恥ずかしながら、この言葉を知ったのはほんの数年前なのだけど、UXデザインと密接な関わりがありそう。というか、そういう流れで知ったわけだけど。
「普通に使える」って、なかなか奥が深い。例えば、スマホに新しいアプリをインストールした時、そのアプリに関する説明書は存在しているか?と言えば、そういったものは殆ど見かけない。初回起動時にちょっとしたチュートリアルがある程度。
スマホアプリにはある程度の暗黙的なルールがあり、それに則って作ることで、初めて使うユーザでも"なんとなく普通に"使うことができる。少しだけ飛躍になるかもしれないけど、これもユーザーを中心に置いた設計(デザイン)がされているからこそ。
ビジネスとUXデザイン
UXというと、ITに関わるそれを連想させがちだけど、昨今ではそれに留まらない範囲のビジネスに注目されています。特に、本書ではビジネスにおけるUXデザインの適用パターンとして、以下の3種類に分類。
- A: 新しい体験価値を実現する新ビジネス・新製品・新サービスの開発
- B: 既存ビジネスに新しい価値を与える新機能・新サービスの開発
- C: 従来型の製品・サービスあるいはビジネスのユーザ体験の質の向上
これらのパターンABCそれぞれに関して事例を挙げながら、具体的にどのようなUXデザインのプロセスを経ているのかを紹介しています。
第2章 『基礎知識』
この章では、UXデザインや人間中心設計、それらのプロセスに関する要素や関係性などについて丁寧かつ体系的に解説しています。
UXデザインの基本フレーム
ここで出てくる図が、上の著者によるスライドで出てくる図なのだけど、これが初見では大変に複雑に見える。テキストと照らし合わせながら読み進めてもおそらく一回では理解しかねる。
UXデザインへのアプローチとしての「インプット」と「アウトプット」についてまず「こんなものがあるのかー」と理解したところで、それぞれを更に掘り下げていきます。
ユーザー体験
まさしくUser eXperienceそのものだけど、偏に「ユーザー」と言っても多種多様であり、同じユーザーでも利用文脈(context of use)によってもその体験は異なってきます。
使わないときでも所有しているだけで満足する製品もあるだろうし、古くなって捨てようと思っても捨てられずに取って置いてある製品もあるかもしれない。ここではそのようなものも含め、ユーザーが認識するあらゆる「関わり」をユーザー体験(UX)と位置づけている。
なるほど納得なUXの位置づけです。
UXの定義
UXには様々な定義があるものの、それらに共通するのは「主観的評価」・「消費者とユーザーの連続性」・「時間的・長期的視点」である、と。
また、UXはその体験の期間によって異なって知覚されます。それらを以下の4つに分類。
予期的UX
製品やサービスを実際に使用する前のUX。
瞬間的UX
使っている最中、何かの操作をした時の感覚だったり、体験しているその瞬間のUX。
エピソード的UX
製品やサービスを利用した後、その体験を振り返る時のUX。
累積的UX
利用期間の長さに関わらない、使用期間全体を振り返る時のUX。
利用文脈
利用状況とも呼ばれるが、製品やサービスを使用するまでの時間的な前後関係のこと。
ユーザーは急にそれを使うことはない(考えにくい)ので、そこには何らかの理由があるはずであり、それが利用文脈となる。つまり、背景やきっかけのことですね。
これらには目で見えない要素も含まれているので、複雑かつ多様ではあるけど、それをどのように扱って、デザインにつなげていくのか、といったところがUXデザインの技法の重要ポイント。
ユーザビリティ、利用品質
ユーザビリティは日本語に訳すと「使いやすさ」と言われがちだけど、正確な訳語は「使用性」となっています。
ある機能は、ユーザーの目標を達成することが主要な能力であるものの、その機能の能力を最大限発揮できるかどうか、つまり、容易に操作できるかどうか(=使用性)、それがユーザビリティ。あくまで、製品やサービス側の概念。
利用品質についてはここでは割愛します。
人間中心デザインプロセス
まずは引用から。
人間中心デザイン(HCD)プロセスは、UXデザインを実践するためのプロセスとして活用されるデザインの理論である。特定のデザイン対象分野に限定されず、あらゆるものに当てはめられるプロセスの考え方である。
わかるような、わからないような感じではあるけど、つまり、『ユーザーを中心にしたUXデザインを行うにあたり、人間中心デザインのプロセスの考え方を活用することが望ましい』って感じかな、と。
ここでは、人間中心デザインについて、そのプロセスとか原則、開発手法との関係など、かなりのページ数を割いて解説しています。それだけ重要なポイントであり、UXデザインと密接な関係を持っているということですね。ここではこれくらいに留めますが。
認知工学、人間工学、感性工学
更に関連する学問の領域についても扱っています。いずれもしっかり勉強したことのある分野とかでないのでとりあえず読んでみた、といったレベルだけど、アカデミックな裏付けを理解した上での実践も重要かもしれないです。
以前、他のデザイン関連の書籍でも見かけた用語、「アフォーダンス」と「シグニファイア」がここでも登場しました。
アフォーダンス
環境や物理的な対象物が人に与える「意味」のこと。環境の中にある情報。
シグニファイア
モノにおけるデザインとしての手がかり(これは押せそう、とか)のこと。人工的な情報。
ガイドライン、デザインパターン
ガイドライン
このブログの最初のほう、人間中心設計について書いたところでは、初見のアプリでも"なんとなく"操作できるのはユーザーを中心に置いた設計がされているから、と書いたけど、具体的にはアプリ開発のためのガイドライン(たぶんこれがユーザー中心に作られている?)があるから、ってことになります。
まあガイドラインの内容が、というよりも、こういったガイドラインの存在自体がユーザーを中心に考えている、って感じなのかな。技術中心ではない感じ。
デザインパターン
元々は建築分野で用いられていた方法であり、それがソフトウエア開発に応用され、品質向上や効率改善に用いられている、と。
ガイドラインとは意味が異なっていて、デザインパターンはあくまでデザインの用法であり、ただただ真似ればいいものでもなく、その利用文脈を理解することが必要としています。そういえばデザインパターンの本でよく見かけるのはこれですね。
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UXデザインのプロセス
最後は第3章への布石というか、以下のようにUXデザインについてまとめられています。
UXデザインは、デザイン対象領域の既存のUXや利用文脈、製品・市場から現状を把握するとともに、デザインの理論であるHCDプロセスや関連分野の知識、ノウハウを活用して行うデザインの実践である。
デザインプロセスには様々なものがあるが、このUXデザインプロセスの特徴的な点として、
- ユーザ体験のモデル化と体験価値の探索 => 体験価値
- 実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化
- プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化
を挙げています。
また、人間中心デザインプロセスと開発プロセスの関係についても図を使って言及されています。システムテストの話にもよく出てくるけど、開発のいわゆる上流工程(企画・仕様検討段階)で、評価を行うサイクルを繰り返す必要がある、と。
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第3章以降について
この後、第3章は「プロセス」、第4章は「手法」といった見出しになっているように、より具体的な方法論、手法について解説されているようです。おそらく、どの手法を採用するかはプロジェクトだったり、それこそ利用文脈とかにもよるのかもしれないですね。
まだまだ理解が乏しいので、初読の感想や備忘録がてら第2章までの「概要」「基礎知識」について、自分なりにまとめて書いてみました。