以前読んだ「リーダーの仮面」という本の著者(安藤広大氏)による著書。前作と一部繋がっているような印象を持つ部分があるが、前作はリーダー(管理職)向け、今作はメンバー向けといった感じ。
僕はマネージャーという肩書きでありつつも、一部プレイングマネージャーのような動きをすることも往々にしてあるため、そのタイトルと著者に惹かれてジャケ買いの如く、購入した。
前著の「読んだ話」記事
長々と書きすぎて、第2章までの感想で終わってしまっているのだけど。笑
前著においては、ある種衝撃的とも言える(言い方を換えれば極端な)内容が印象的で、そのすべてを実務で実践できるかどうかは度外視したとしても「確かにそうあるべきだよな」と納得せざるを得ない部分は少なからずあった。
今作の目次
まずは再読時に掘り出しやすいように目次を載せておく。(出版社のサイトから引用)
序章 「数値化の鬼」とは何か
- 数字の「ネガティブ」を取り除こう
- 日頃から「数字のある会話」をしているだろうか
- 数値化ができる人は「失敗」が当たり前になる
- 「仕事ができる人」になる5つのステップとは
- 序章の実践 「数値化」をクセづける
第1章 数を打つところから始まる ── 「行動量」の話
- 「仕事ができる人」の共通認識とは何か
- 数値化とは「PDCA」を回すことである
- 「数をこなす」ためのすぐやる仕組み
- 「D」に素早く移れるマネジメント環境を整える
- 目標は「いつでも思い出せる数字」でないと意味がない
- 1章の実践 「PDCA」をやってみる
第2章 あなたの動きを止めるもの ── 「確率」の話
- 「伸び悩む人」に共通する考え方
- 「確率のワナ」に注意しよう
- 目標の「%」には気をつける
- 「働かないおじさん」を生まないための仕組みづくり
- 「平均のウソ」にもダマされてはいけない
- 2章の実践 「数字のウソ」を見抜く
第3章 やるべきこと、やらなくてもいいこと ── 「変数」の話
- 変えられるもの」と「変えられないもの」を見分ける
- プロセスの「型」を身につける
- いち早く「変数」に気づけるプレーヤーになる
- 「変数じゃないもの」に固執しない
- 他人の成功論はすべて「変数」ではなく「仮説」
- 「変数」が「変数」でなくなるとき
- 3章の実践 「変数」を見つける
第4章 過去の成功を捨て続ける ── 「真の変数」の話
- 「変数」は放っておくとどんどん増えていく
- 変数の中から「1つ」に絞り込む
- できるマネジャーは「変数」を減らす
- 「社内の変数」を減らしているか
- とにかく迷ったら「変数」で考える
- 4章の実践 「変数」を減らす
第5章 遠くの自分から逆算する ── 「長い期間」の話
- 「短期的」と「長期的」の2つの視点
- 短期的には損だけど、長期的には得なこと
- 「短期から長期、長期から短期」へ逆算する
- 長期的に考えざるを得ない「環境づくり」
- 5章の実践 「長い期間」で考える
終章 数値化の限界
- 「数字がすべてではない」のステージに行くために
「仕事ができる人」になる5つのステップ
ここだけ別枠で。
ステップ1)「行動量」を増やす
⇒ 自分の行動の数を正確に数えることステップ2)「確率」のワナに気をつける
⇒ 割り算による安心感のワナに気をつけることステップ3)「変数」を見つける
⇒ 仕事の中で何に集中するかを考えることステップ4)「真の変数」に絞る
⇒ ムダな変数を削り、さらに重要な変数に絞り込むことステップ5)「長い期間」から逆算する
安藤広大著「数値化の鬼」P.61
⇒ 短期的と長期的、2つの軸で物事を見ること
章ごとに印象に残った部分まとめ
感想をずらずらと書くとまた前回のようになってしまいかねないので、初読中に「気になったところ」にペタペタと貼り付けた(冒頭の写真参照)付箋を振り返りながら一部引用しつつ書いていく。
はじめに
数値化のメリットは、何よりも「コミュニケーションコスト」を減らすことです。
安藤広大著「数値化の鬼」P.21-22
ーーー中略ーーー
ここで言うムダとは、「データのない不毛な会議」「好き嫌いや空気の読み合い」「認識の違いによる仕事上のエラー」のことを指します。
本全体で繰り返し「数値化の鬼になれ」と謳われるわけだけど、そのメリットが「はじめに」で語られている。この中でおそらく最も重要なのは三番目の「認識齟齬」で、数字という世界共通のモノサシを使うことで「感覚」によるズレを排除できる、と。
前著でも「感情を横に置け」的な文句があった気がするけど、それに近い気がした。
序章
このように、誰かに伝える段階では、数値化させることが有効です。
安藤広大著「数値化の鬼」P.50
感情にうったえかける表現は、最後の味付けのようなものです。
仕事において情熱的に、感情にうったえかけるような動き方は、一切の意味がないとまでは言わないものの、最初からそれではダメ。あくまで数字的なあれやこれやをすべてやり切ったあとで、最後に行われるべきもの。儀式的。
たとえば、「会話力」「英語力」という言葉があります。
安藤広大著「数値化の鬼」P.63-64
「はじめに」でも述べたように、これは「数字」ではなく、「言葉」です。
ーーー中略ーーー
「体力をつける」「忍耐力を上げる」「集中力を鍛える」なども同じです。
これらは、数値化に見せかけた「ニセモノの数字」です。
ここは考えてみれば確かに、と思えるし、すごく納得した。なんでもかんでも数字にするのは無理なのではないか(実際できないこともあるが。)、と思えるひとつの要因が、この「会話力(コミュニケーション力)」とか「集中力」といったゲームのパラメータのような言い方。
パワプロみたいにパワーがAとか、守備力がBとか、わかりやすく数字やアルファベットで表せる世界なら通用するかもしれないが、そもそもの指標が数値化を意図していないものになってはいないだろうか。(=定性的)
第1章
日々の業務の中でやらなければいけないことを「何回やったのか」「1日に何時間できたのか」と、行動量を増やすことだけを考えてください。
安藤広大著「数値化の鬼」P.84
「行動量」の話は本著で繰り返し述べられる事柄だけど、とにかく数、時間をこなす。質や成功率ではない、まずは量。もちろん全然的を得ていない行動の量を増やしたところで意味はないので、その行動の方向が正しいかはPDCAのC/Aで判断する。
「1日10個ずつ」「週2回」など、ここでも数字が入っているのに気づくと思います。
安藤広大著「数値化の鬼」P.90
「KPI」は数値化されていないと意味がありません。
目標のための目標であるKPIを数字で設定する。P(計画=目標)が数値化されていても、そのためのD(行動)が「がんばる」などでは意味がない。日々の行動に迷いがないレベルにまでKPI分解する必要がある。
「英語を話せること」-> 「英単語を1日10個ずつ覚える」「英会話に週2回通う」など。
なぜなら、ここでも「手段」と「目的」が入れ替わってしまう危険性があるからです。
安藤広大著「数値化の鬼」P.97-98
ーーー中略ーーー
部下からすると、「KPI」のほうが「大きな目標」であるかのように誤解してしまうのです。
第1章の話をマネージャー目線で語られているのだけど、この「手段」と「目的」の逆転現象は自分がマネージャーをしているグループ内でも度々散見される。特に、半期の目標設定の時など、目標の中にいきなり「行動(Action)」が入ってきて、何のためにやるのか、が不透明だったり。
暗黙的に「良いシステムを作るための行動です」という感じなのかもしれないが、「良いシステムとは」を掘り下げ、その結果をさらに掘り下げ、そこから導き出された「行動」なのかは問うようにしている。
もしかして自分が思いつく、できるであろうこと、を目標にしようとしてないか?と。(これが第3章以降に出てくる「変数」というやつに近いかもしれない)
全員が売上を追いかけると、「お客さんへのフォローがなくなる」「会社全体に助け合いの精神がなくなる」というネガティブな見方もできると思います。
安藤広大著「数値化の鬼」P.112
ただ、これを解決するように目標を設定すれば、大丈夫です。
ここの節はちょっと納得いかないというか、現実には難しいところだな、と感じている。
誰かをサポートしたり、助けたり、といったことは突発的に行われることが多いうえ、その度合いや難易度も様々であるため、「1回サポートした」とか「何かを1個教えた」をいちいちカウントしていくことはやや現実味に欠ける。
IT業界だと尚更のこと、書いたソースコードの行数や文字数の多さ=行動量なのか、というと怪しいし(コードは短く、可読性が高い方が良いことのほうが多いが、可読性は数値化が難しい、など)、トラブル対応においては、そもそもの原因が自分たちにあった場合は自作自演感が演出されてしまいかねない。
第2章
しかし、「量」より「質」が上回り、「質を上げること」が目的になってしまうことは大問題です。
安藤広大著「数値化の鬼」P.131
あくまで「行動量ファースト」であり、それをキープしたまま「確率も上げていく」というのが正しい順番です。
確率もひとつの数字であるものの、80% vs 50%では必ずしも80%のほうが優秀であるとは限らない。重要なのは「行動量」、すなわち「母数」である。質にこだわることに問題はないが、順番は量->質であり、量を減らして質を上げることは「働かないおじさん」への第一歩。
頭の中で一瞬でも、数字で考えることが大事です。そして、疑問に思ったり、納得できないときは、数字を詰める。
安藤広大著「数値化の鬼」P.154
ここは正直グサリときた。上記の引用の前にあるやりとりの例がまさしく、なのだけど、進捗はどうか?->順調です->了解、のような。
何を以て「順調」であるのか、スケジュールか、売上か、はたまた感覚か。そして、「むしろそれをやらない人は、部下たちから人気を得るかもしれませんが、結果が出なければ人は離れていきます。」と・・・。
第3章
ここで初めて、連絡やフォローの「回数」が「変数」であったことに気づけます。
安藤広大著「数値化の鬼」P.174
ーーー中略ーーー
これに自分自身で気づくためには、シンプルな方法ですが、「なぜ?」を繰り返すことが大事です。
やるべきこと・やらなくてもいいこと、として「変数」「定数」の話が展開される章において、何が「やるべきこと(変数)」であるのかを如何に見つけるか、というもの。
変数を自分自身で見つけるために、自分の行いと真摯に向き合い、それが合っていたのか、間違っていたのかを判断していく。「なぜ?」を繰り返すことは自分の間違いを認めることでもあるが、それが成長に寄与する。
それぞれのプレーヤーは、自分の「PDCA」を回しながら「変数」を見つけていきます。
安藤広大著「数値化の鬼」P.194
その「変数」が、他の人にとっては「仮説」です。
ーーー中略ーーー
正解ではなく「仮説」なのですから、役に立つ可能性がある、という話です。
他の人や他のチームでうまくいった行動やその事例は「変数」ではなく、自分にとっては「仮説」となる。つまり、まったく同じ「変数」に対して行動を増やしても成果が得られないかもしれない。それは仮説だから。
ただ、組織が全体で大きな利益を生み出すため、成功事例は積極的に「仮説」としてシェアすべきであり、知識のブラックボックス化は許すべきではない。それが「変数」になるかは行動してからわかる。
第4章
その結果、どういうことになるかというと、「すべては大事だ」という考えに陥るのです。
安藤広大著「数値化の鬼」P.206
ーーー中略ーーー
KPIが多すぎたり、社内の変数が多かったりすると、余計なことを考える時間が増えてしまうのです。
長くやればやるほどに「変数(やるべきこと)」となる事項が増えていき、すべてに力を傾けなければならなくなることは想像に難くない。日常的に頭の中に出てくる目標は5つが限度であり、変数も同様。
それ以上の変数は変数であっても優先順位を付けたうえで下位を「捨てる」ことが重要。捨て方のアプローチとしては
- 個人として、「他に変数がないかを考え、前例を手放すこと」
- チームとして上司やリーダーから「それは変数ではない、と指示をすること」
過去の行動による成果の根底にある「変数」すら疑い、その要素が既に「変数」ではなく「定数(または優先度の低い変数)」になっていないかを」考え、事実を受け止める。
いずれの場合も、間違った努力をしているところは、「それは変数ではありません」ということを認知させることが重要です。
安藤広大著「数値化の鬼」P.219-220
ーーー中略ーーー
そこまでやって、初めて部下に対してフィードバックをしたことになります。
これこそマネジメントの重要課題(タスク)のひとつなのではないかと思う。「あなたはできている・できていない」と伝えることがフィードバックなのではなく、「あなたの努力の方向は合っている・間違っている」と伝えることが重要。
そしてもうひとつ、次の節に書かれていることだけど、「他人への責任の押し付け」を生まないこと。
- 他部署のせい
- 環境のせい
- 世の状況のせい
明らかに変数ではない(プレーヤーの権限を超える範囲)ものに対して、目標達成できなかった責任を押し付けるのではなく、常に変数に向かう(向かわせる)。そういったリサーチや現状分析は行うべきものだが、それと自分の目標を関連付けるのは間違い、らしい。
とはいえ、実際「コロナ渦で・・・」とか「あの部署が・・・」とかは往々にしてあると思うので、前者の場合は例えば「今後はどうしようか」に目標を向けさせるべきで、後者の場合は「それでも何か対応できなかったか、別のアプローチ(変数)はなかったか」に向かわせるべきなのかな。
自分にとっての課題と他人にとっての課題を分けるということ。つまり、他者を変えようと努力するのではなく、自分の考えを変えるしかないということです。
安藤広大著「数値化の鬼」P.230
これも「変数」と「定数」の話の延長。自分の権限でコントロールできない範囲や、そもそも変えようがないもの(天気とか)に関してはキッパリ見限って、自分のコントローラブルなものに頭を切り替える。そのほうが結果的に楽。
ただし、自分の考えを変えるしかない、というのは、常に相手に合わせる、という意味ではなく、他に方法はないか、を探り続ける、ということだと解釈した。
第5章
なので、マネジャーとしての覚悟を決めるということがポイントになります。
安藤広大著「数値化の鬼」P.267
まだ結果は出ていないけれど、この方向性で進んでいけば間違いない、というように、部下であるプレーヤーが「迷いなく行動量を増やせる」という環境をつくることです。
第5章はそこまで付箋多く貼っていないのだけど(短期的 vs 長期的、の話はこれまでもいろいろと感じてきていることもあるため)、プロセスを評価しない識学の考え方において、
- 目標達成しているが、行動量が落ちているプレーヤー
- 目標未達ではあるが、行動量が増えているプレーヤー
のどちらをどう評価するか。短期的には前者(目標達成しているため)を評価するが、一方で後者のプレーヤーが迷いなく行動し続けられるように「背中を押す」、そして、その「目標」を分解した「KPI」の達成も評価対象に入れる必要がある、ということ。
※とはいえ、長期的には「目標」で評価していくようにシフトする
終章
安藤広大著「数値化の鬼」P.276
- 「数字の成果」->「自分らしさ」
- 「数字の根拠」->「言葉の熱量」
- 「まずやってみる」->「理由に納得する」
- 「チームの利益」->「個人の利益」
- 「行動量を増やす」->「確率を上げる」
- 「長期的に考える」->「逆算して短期的に考える」
本著で述べられてきている「順番」についてのまとめ。常に左->右の順で考え、行動すること。数字の成果を出してから自分らしさを出す、数字の根拠を語ってから言葉の熱量を上げる、など。
読了後の感想
発売されてから読み終わるまでにだいぶ時間を要してしまったけど、それは単純にサボっていただけで、実質的には一日ちょっとで読了。
内容的には「数字で語れ」のようなことかな、と想像していたこともあり、その背景にある考え方やちょっとした手法、根拠など、丁寧にまとめられていてすらすらと読むことができた。全体的に納得感も強い。
一方で、理論上の数値化は可能だけどその数値を集めること(データを取ったりカウントしたり集計したり)に時間や手間がかかってしまう場合をどうするのか、という点については特に触れられておらず、そこは「数値化する目標」が必要な気がした(無限ループ感?
僕自身、前々から「感覚じゃなく、データ(数字)で語らなければ」と感じながら仕事をしている面も多分にあるので、この本きっかけに、というわけではないが、より一層の数値化を進め、本書で言うところに「数値化の鬼」を目指しつつ、育てられれば、と思う。
最後に、著者である安藤広大氏が本著について語っているnoteを貼っておく。